二千年にわたる常識が覆る「緩むことのないネジ」
“株式会社NejiLaw”
産業部 製造産業課
株式会社NejiLawの道脇社長
二千年もの永きにわたって、当たり前のように使われ、基本的構造は変わることがなかった“ねじ”。あまりにシンプルであるが故に、誰もが構造自体を変えようなどと思いもしなかった。しかし、ねじには緩みによる事故や日々の点検作業など、避けては通れない“緩み”という大きな問題があった。その宿命とも言うべき問題「緩み」を完全に克服した「緩むことのないねじ[L/Rネジ]」の開発に成功し、現在、量産システムを開発中の株式会社NejiLaw(ネジロウ)にお話を伺った。 以下は、道脇社長の良き理解者でありパートナーである新藤歩氏が、(株)NejiLawと道脇裕氏について熱く語ってくれたものである。
○「緩むことのないねじ[L/Rネジ]」とはどういうものですか?
そもそもねじとは、漢字では「螺子」と書きますが、螺旋(らせん)の「螺」に素子(そし)の「子」があてられています。このことからも判るとおり、『螺旋の要素をもった物体こそがねじである』と言える訳です。
これに対して、L/Rネジの雄ネジ(ボルト)には、螺旋構造がどこにもないのです。つまり、右螺旋と左螺旋の役割を果たす構造が同時に刻まれることで、従来の螺旋を打ち破った構造になっているのです。そして、この雄ネジに対して、まず通常回転のナットを組み付けて固定し、次に逆回転のナットでさらに固定する。すると通常のネジの増し締めの方向にネジを回そうとすれば既存のねじ同様に締まるだけとなり、逆に通常の緩める方向に回そうとすれば、逆回転のナットは締まろうとする方向に動こうとしてナット同士がぶつかって動かない訳です。また、ナット同士が構造的に結合するようにしてあることから、これまでのねじのように摩擦に頼る構造とは根本的に違い、一度締めてしまうと構造的に動かないことになります。
もちろん、「緩むことのないネジ」を標榜するからには、緩まないことを証明しなくてはいけないので、まずは「緩む」とは何かを調べました。ところが、どんなに調べても既存の定義は検討されている範囲が余りにも狭く、満足の行く定義は見当たりませんでした。結果的には、自ら緩みの定義まですることとなりました。そして、基本的な緩み方が63通りに分類できることを見出し、緩みについての理解を深めていきました。
その後、最も過酷な緩み耐久試験と言われている米国の航空宇宙関係で使われている試験規格でも、実際に緩みの検査を行ないました。サンプルを試験機に固定し、もの凄い衝撃振動をかけて試験を行いました。本来の試験規格は17分間の耐久で合格となりますが、それを超えて試験を行い、数時間経った頃でしょうか、音に変化があったのでとうとう外れたかと思い、飛び込んで見てみると試験機の周りにねじが散乱していたのです。ついに緩んだかと思いきや、よく観ると試験機を固定するねじが床に散らばっていたのでした。そのねじは、外れないように緩み止め専用の接着剤で固められたねじでした。結果的には、借りていた試験機を破損することになってしまいましたが、L/Rネジは全く緩むことなく試験冶具に収まっていました。つまり全く緩まないことがこの試験でも証明されたのでした。
一方で、これでは緩み耐久試験を実施できないということで、長期間の試験に耐え得る試験機を徹底的に探しましたが、そのような試験機は存在しなかったので、振動試験機も独自に開発することにしたのです。さらには、この試験が余りにも騒音を出すことから高性能な防音室まで開発し、現在はこの防音室に独自開発の振動試験機を設置して試験を行っています。
企業写真 企業写真
○開発段階での苦労は?
これまでに無いものの宿命で、先ほどの試験機や防音室同様、周辺の機械はもとより、規格や定義なども独自に一から開発しなくてはならなかったということが挙げられます。実際には、それも楽しみの1つなのですが。
また、試験を実施することも出来なかった当初は、某技術評価機関の委員会において某有名国立大学の教授でこの分野の権威に、「この構造では、理論値最大で既存のねじの25%しか強度が出ない」と数式まで出されて指摘をされたことがありました。しかし、代表の道脇は即座にいくつかの矛盾点を指摘し、後日、数式にて反論しました。が、残念ながら結局は、物別れに終わってしまいました。この“誤解と無理解”によって、開発に数年の遅れが出たことは非常に残念であり、途方もない苦労の始まりとなってしまいました。
従来の連続した螺旋構造と異なり、断続的な特殊な三次元のネジ山構造のため、普通に造れば、やはり機械的強度は既存のねじよりも劣ってしまいます。しかし、道脇にはそれを克服する構造のイメージがあったのでした。そこで、それを確認し、実現するため、従来のねじの加工精度より1桁高い精度で加工し、かつ、1000種類を超える条件でテストピースを製作、試験するなどしてイメージに近づける努力を重ねて行きました。その結果、既存のねじの3倍もの強度項目を持たせることにまで成功したのです。その際、構造的な原因を調べるためには、ネジの形状を精度高く測定できる機械が不可欠であり、あらゆる試験機関に問い合わせたのですが、満足な測定が出来る装置が無く、これも独自に開発しています。
○開発を成功させる秘訣は?
「解るまで考える。出来るまでやる」これは道脇の信念であり、これを端的に示すエピソードがあります。道脇が二十歳頃のこと、ある大企業の創業者に、最上階の会議室で未解決の難題を出され、道脇は直ぐに回答しました。しかし回答した内容は、本人自身でも満足の行く方法ではなかったようです。それから15年が経過したある日、その課題解決に最も適した方法を思い付き、周囲に思い付いた内容と課題について説明したのです。道脇は、まさに「解るまで考えている」のです。もちろん、道脇の思考速度はとてもじゃないが常人がついて行けるモノではないのです。その驚くべき速度を以て解るまで考え続けているというのは常軌を逸した思考量であると言えます。
そして、道脇は決して諦めないのです。原理的に可能であり、完成すれば世の中の役に立つと思い至ったモノは、何度失敗しても、いえ失敗したと思っていないと言えるでしょう。「○○すると、××のような結果が得られる」というように、新たな知見を得たと思っているに違いありません。これこそが、開発を成功させる秘訣と言えるのではないでしょうか。
○会社設立の経緯をお聞かせください。
社長の道脇裕は、数学者で大学教授であった祖父や大手化学系企業の研究所長・役員の父、大学教授の母のもとに生まれながらも正規の教育を殆ど受けず、誤解を恐れずに言えば学歴はゼロ。しかし、あらゆる学問を独学自習し、子供の頃から日常的に発明を行ってきました。幼少の頃から事業を行い、海外遊学などを経て、いくつもの会社の顧問や社外取締役などを歴任してきました。今では、日に数ダースのアイデアが浮かんでしまい、書き留めるのも追いつかない程です。そんな道脇の理解者たちから、あるとき「アイデアばかりではもったいない。まずは何か一つでも形にしてみよう。」と言われ、数多くある発明の中から、思いつくまま200以上のアイデアを箇条書きにしました。その中の一つに、当時からして10年以上前に構造を思いついていた今回の「緩むことのないネジ」があったのです。
○最終的に「緩むことのないネジ」に決まったのは何故ですか?
企業写真
「紙粘土で作った第1号のネジ模型」
他にも有望なものは、いくつもあったのですが、「画期的だけど大手企業と組まないと事業化は難しい」「開発にお金がかかる」「業界の反発があるかも」などなど、実現性や事業化の可能性など様々な要件を検討していった結果、理解者の一人である著名な実業家から「まずは、単独で取り組めそうなネジが良いのではないか。規模もちょうど良い。」という一言で最終的にネジに決まったのです。
このネジは、これまでにない特殊な構造をしているので、平面図だけでは構造が理解されず、また、お金もないのでサンプルを作るなんてとても出来ない状況であったことから、とりあえず説明用に作ってみた試作第1号がこの[紙粘土で作ったネジ(写真)]です。これではさすがに機能しないので、当然誰も理解出来なかったのですが。
大学教授などの中には、「これは理論的に不可能だ。」と言う人もいましたが、道脇の頭の中では既に出来上がっており、絶対に出来る確信があったのです。その後、実際にサンプルを作製して、機能することが証明されました。しかし、既にそれまでに数年の歳月が流れていたのでした。
その後、2009年7月に株式会社NejiLawを創設し、現在3年が経過したところです。事業としては、自社の工場は持たず、外部で委託生産しています。
○数多くの賞を受賞されていますね。
お陰様で昨年度は、「GOOD DESIGN 金賞」をはじめ、「東京都ベンチャー技術大賞」、「かわさき起業家大賞」などなど様々な賞を受賞させていただきました。
企業写真 企業写真
○今後の展開は?
数多くの賞を受賞したお陰か、毎日のように国内外から問い合わせが来ている状況です。現在は、切削加工で一品ずつ製作している段階で、どうしても高価になり、特殊な用途のみの対応となっているのですが、今年度のサポイン事業(※)に採択され、量産技術を開発していることから、これが完成すれば既存のねじとそれほど変わらない価格で提供できるようになります。
ゆくゆくは、鉄道や航空機、車両や橋など、高度な安全性を要求される用途で使用されることを想定しています。
○他にはどのような発明がありますか?
Next Innovationという道脇の別会社で恐縮ですが、直近では、以前より付き合いのある大手企業の協力により、「放射線防護システム・ウォール AQUABarrieR」を製品化しました。構造は単純で、専用のユニットに現場で水を入れて設置するだけで90%もの放射線減衰率が得られるモノです。透明であり、公園や通学路に設置しても視界を遮ることなく安全で威圧感がないのも大きな特徴です。また、注入する水に色を付けたり、ライトアップ等すると、とてもきれいで、通常の店舗インテリアにも向くように構成されています。http://www.kanto.meti.go.jp/webmag/kigyojoho/1301kigyou_sei.htm
2.13 (参考資料) 神は「2」を愛し給う
二元論については古来いろいろな人達によって主張され、あるいはそれとはなしに感じるものがあると思う。 私も数学の研究や教育の場においてしみじみと感じるものがあるのでその一端を述べてみたい。
まず数学から。基本的な概念である実数は普通10進法で記述されているが、本質的には2進法で記述される。しかし数としての実数はあまりにも狭く「数」としては2つの実数の組である複素数で考えなければならない(複素解析学―人類の傑作)。解析幾何学は代数と幾何の2つの概念の融合したものであり、射影幾何学は点と直線の2つが全く同等の存在であることを述べている ― それには我々は「無限遠点」を観なければならないが。
またそこでは、比の比すなわち複比が重要な不変性をもっている。演算も二重に現れる。
加法と減法、乗法と叙法、微分と積分、変換と逆変換、さまざまなoperatorに対する
“adjoint”operator、鏡像の原理、エルゴート性、さまざまな“duality principles”等々。今世紀における幾何学の方向を与えているガウス・ボンネの美しい定理は曲面の「局所」的な性質と「大域」的な性質の2つの間の関係を述べており、曲率の最大値と最小値を2つ掛けると素晴らしい不変量になるというガウスの「偉大なる発見」に基づいている。
2階の微分方程式は他のものに比べて圧倒的に重要であり、加速度は2階の微分で表わされる。ピタゴラスの定理a2+b2=c2では2乗でなければならない。私が1982年に発表した「積分変換の一般論」は、この定理の一般化になっていた。これは線形変換でL2概念が不変に保たれることを述べており ― 波動や熱伝導等の現象においてもL2概念は保存され、ピタゴラス型の定理が成り立っている!!
次に最も進化(退化)した生物であり神の最も愛する(憎む)我々自身に目を向けてみよう。男と女が2つ一緒になって「人」になり、我々は脳、目、耳、鼻、腕、肺、心臓、足、指、いのち等それぞれ2つずつもっている。また遺伝子は二重螺旋構造をもっているという。
二重といえば、二重のドア、鍵、堤防、道、被覆、窓、コード、回路、結合、価格、火山、唱、生活、底、否定等は格別の意義をもっているのであろう。
政治・社会においても2大勢力がモデルになっているのではないかと思う。そうだとすれば、多党化現象や中立政策は好ましいものではないことになろう。
さらに偉大なる発見、進化(退化)は2段階で行われていることにも注目したい。旧約聖書と新約聖書、物理学におけるニュートンとアインシュタインの発見、飛行機とロケット、積分論におけるリーマン積分(横)とルベーグ積分(縦)、超函数の理論におけるシゥヴァルツと佐藤幹夫氏の理論等。戦争も進化(退化)の1つとみれば、あのようなハードな世界大戦は 三度は起こら(せ)ないであろうと思われる。
また現在進歩の著しいコンピュータはノイマン型とよばれているという。このような理由から間もなく新しい型のしかも決定的な型のコンピュータが出現するのではないかと予感している。
さらに発見が二重に行われる傾向にあるから論文の発表は急いだ方がよいとヤーノス・ボヤイの父は彼に忠告したものだが、歴史は正にそうであった(非ユークリッド幾何の発見)。
世界を二元論のみで観るといろいろ気づいたり発見したりすることが多いのではないかと思う。数学においてはこのような見方が研究の指導原理を与えたり、しばしば楽しい想いをさせるのである。
トコトンやさしいねじの本 (B&Tブックス―今日からモノ知りシリーズ)/門田 和雄
¥1,512
Amazon.co.jp
0 件のコメント:
コメントを投稿