科学が個人の行動や政府の公共政策に大きな影響力を及ぼす現代において科学者の仕事はただ研究室に籠るだけではない。科学者自身が研究成果を新聞やテレビ、ウェブサイトやオンラインビデオで発表することも求められている。だが表舞台に現れる科学者は、一般の人々のようには評価されないようだ。調査によると容姿の優れた科学者は実力不足だと判定されてしまう傾向があるという。
◆容姿の良さは逆効果?
 イギリスのエセックス大学とケンブリッジ大学が、科学者の見た目の印象は研究結果が社会に伝達される過程でどのような影響をもつのか調査を実施した。
 調査対象者は3つのグループに分かれ、そのうち一つのグループは科学者の顔写真を見せられ、魅力度や見た目年齢などの評価を行なった。顔写真は全米200校の大学で物理学、遺伝学、生物学を専攻する科学者のものが使用された。他の2つのグループには、各科学者の研究をさらに詳しく知りたいと思ったか、またその人がどれほど正確で重要な研究を行なっているように見えるか質問した。
 研究チームが分析した結果、人は魅力的と感じた科学者の研究についてより詳しく知りたいと感じることが明らかとなった。だがその一方で、正確で重要な研究を行なっている科学者には魅力度で劣る科学者が選ばれる傾向にあったのである。
◆科学者のステレオタイプ
 研究結果が明らかにするのは科学者の研究が脚光を浴びる要素となる容姿の良さといった要素は、研究成果の信頼性を高めるどころか、その価値を貶めてしまう可能性もあるということだ。なぜこのような結果が起こってしまうのか。考えられる要因としては、人々にとって科学者はいまだに人間的な魅力が欠如した、どこか浮き世離れした真理の探求者というようなイメージがあるということが考えられる。ゆえにいくら有能でも、容姿の良さといった魅力のある科学者に対しては猜疑心を持ってしまうのだろう。

◆研究チームの懸念
 最後に研究チームは、一般社会において容姿が判断材料となるのと同様に、科学においても気候変動やバイオテクノロジーといった重要な科学的問題に対する人々の考え方や政府の対応に、科学者の容姿が影響を与える可能性があると結んでいる。こうした懸念が現実にならないためにも我々自身が科学者に対して、固定したステレオタイプを押し付けないことも重要であろう。
 SNSや動画サイトなどの視覚メディアの発達により、これからの科学者には研究成果だけでなく、プレゼンテーションといったコミュニケーションの能力も要請されるであろう。現にTEDなどのメディアでは学問の第一人者が魅力的なプレゼンテーションを披露している。そのような時代に、ただ魅力的すぎるからといって科学者の研究成果まで評価を下げてしまうのはもったいない。現代人は魅力的な科学者もまた存在するということを認めて、無意識のバイアスにかからないよう注意することが望まれるだろう。