一般相対性理論
{\displaystyle G_{\mu \nu }+\Lambda g_{\mu \nu }={\tfrac {8\pi G}{c^{4}}}T_{\mu \nu }}
アインシュタイン方程式
入門(英語版)
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表・話・編・歴
カー解(カーかい、Kerr solution)、カー計量(Kerr metric)あるいはカー・ブラックホール解とは、一般相対性理論におけるアインシュタイン方程式の厳密解の一つで、真空中を定常的に回転する軸対称なブラックホールを表現している。ニュージーランドの数学者ロイ・カー(Roy Kerr)によって1963年に発見された。 カー計量によって表現される時空には、時間並進と回転に関する2つの等長変換群(アイソメトリ―)が作用する。 ペトロフ(A. Z. Petrov)による分類によれば、カー計量はDタイプに属する[要出典]。
すぐ後に、さらに電荷を帯びた カー・ニューマン解(Kerr‐Newman)も発見され、角運動量・質量・電荷の3つのパラメータを持つブラックホール解として、その後、一般相対性理論の描く時空の姿の理解に広く使われている。
カー・ブラックホールでは、事象の地平面の外側には、回転の影響により、観測者が一点に留まれないエルゴ領域 (ergo region) と呼ばれる領域が形成される。はるか遠方の観測者から見ると、このエルゴ球のちょうど表面で回転と逆方向に放射した光子は放射した一点に留まっているように見え、球面の内側で回転の逆方向に放射した光子は回転の順方向に引きずられているように見える。(ただしエルゴ領域は事象の地平面の近傍に形成されるため時空が極度に縮んでおり、回転の順方向に放射した光子の速度も平坦な時空の光速度より遅れて見え、見かけの超光速が達成されているわけではない。)また、中心部の特異点は、リング状になっていると理解されている。
ブラックホール脱毛定理 (no‐hair theorem) において、すべての現実的なブラックホールは、いずれ、角運動量・質量・電荷の3つの物理量のみを持つカー・ニューマンブラックホールに落ち着くと考えられている。また、「アインシュタイン・マクスウェル方程式での軸対称定常解は、カー・ニューマン解に限られる」というブラックホール唯一性定理 (uniqueness theorem)も存在する。
ホーキング は、重力の孤立系としてのブラックホールを、熱力学と類推することにより、ブラックホール熱力学 を構築した。 そこでは、ブラックホールの面積はエントロピーと対応し、常に増大する量となる(ブラックホール面積定理 )。
目次 [非表示]
1 カー計量の表現
1.1 ボイヤー・リンキスト(Boyer-Lindquist)座標による表現
1.1.1 計量の逆行列と行列式
1.1.2 正規直行基底の見易い表式
1.2 エディントン・フィンケルシュタイン(Eddington-Finkelstein)座標による表現
1.3 カー・シルド(Kerr-Schild)形式による表現
1.4 カーターのクラス
1.5 極限カー計量
2 事象の地平面
3 エルゴ球面
4 測地線
5 隠れた対称性
5.1 測地線方程式の変数分離性
6 出典
7 参考文献
8 関連項目
カー計量の表現[編集]
以下では、光速 {\displaystyle c} c と万有引力定数 {\displaystyle G} G を1とする幾何学単位系( {\displaystyle c=G=1\,} c=G=1\,)を用いる。
ボイヤー・リンキスト(Boyer-Lindquist)座標による表現[編集]
カー自身が彼の論文の中で使った座標ではないが、カー計量はボイヤー(R. H. Boyer)とリンキスト(R. W. Lindquist)によって導入された座標(ボイヤー・リンキスト座標)を用いて次のような形に書かれるのが一般的である。
{\displaystyle {\begin{aligned}ds^{2}=&-\left(1-{\frac {2Mr}{\Sigma }}\right)dt^{2}-{\frac {4aMr\sin ^{2}\theta }{\Sigma }}dtd\phi \\&+{\frac {\Sigma }{\Delta }}dr^{2}+\Sigma d\theta ^{2}+\left(r^{2}+a^{2}+{\frac {2a^{2}Mr\sin ^{2}\theta }{\Sigma }}\right)\sin ^{2}\theta d\phi ^{2}\end{aligned}}} {\begin{aligned}ds^{2}=&-\left(1-{\frac {2Mr}{\Sigma }}\right)dt^{2}-{\frac {4aMr\sin ^{2}\theta }{\Sigma }}dtd\phi \\&+{\frac {\Sigma }{\Delta }}dr^{2}+\Sigma d\theta ^{2}+\left(r^{2}+a^{2}+{\frac {2a^{2}Mr\sin ^{2}\theta }{\Sigma }}\right)\sin ^{2}\theta d\phi ^{2}\end{aligned}}
ここで、
{\displaystyle \Sigma =r^{2}+a^{2}\cos ^{2}\theta \,,\quad \Delta =r^{2}-2Mr+a^{2}\,} \Sigma =r^{2}+a^{2}\cos ^{2}\theta \,,\quad \Delta =r^{2}-2Mr+a^{2}\,
座標の範囲は、 {\displaystyle -\infty
計量の中に座標 {\displaystyle t} t や {\displaystyle \phi } \phi が現れないので、 カー時空には {\displaystyle \partial /\partial t} \partial /\partial t および {\displaystyle \partial /\partial \phi } \partial /\partial \phi の生成する等長変換群が作用する。 それらの等長変換は {\displaystyle t\rightarrow t+dt} t\rightarrow t+dt 、 {\displaystyle \phi \rightarrow \phi +d\phi } \phi \rightarrow \phi +d\phi という変換に対応しているので、カー時空の時間並進対称性(定常性)と回転対称性(軸対称性)を示している。また、カー計量は {\displaystyle t\rightarrow -t} t\rightarrow -t 、 {\displaystyle \phi \rightarrow -\phi } \phi \rightarrow -\phi というそれぞれの変換に対して {\displaystyle g_{t\phi }} g_{t\phi } 成分の符号を変えるだけで、2つの変換を同時に行うと不変である。これは時間反転に対して、回転方向がちょうど反転されることを意味する。さらに、 {\displaystyle a} a の符号の反転も {\displaystyle g_{t\phi }} g_{t\phi } 成分の符号を変えるだけであるので、これもやはり回転方向を反転させることに対応する。
ボイヤー・リンキスト座標による表現では、カー計量は {\displaystyle \sin \theta =0} \sin \theta =0 となるところ( {\displaystyle \theta =0,\pi } \theta =0,\pi )で定義されないことが分かる。 さらに、 {\displaystyle \Sigma =0} \Sigma =0 ( {\displaystyle r=0} r=0 かつ {\displaystyle \theta =\pi /2} \theta =\pi /2 )または {\displaystyle \Delta =0} \Delta =0 となるところでも定義されない。 後で見るように、 {\displaystyle \Sigma =0} \Sigma =0 となるところはリング状の特異領域になっている。また、 {\displaystyle \Delta =0} \Delta =0 となるところは事象の地平面(event horizon)とよばれる場所であり、 {\displaystyle \Delta =0} \Delta =0 の実根の数によって、カー時空は3つの場合に分類されている。
{\displaystyle |a|
{\displaystyle |a|>M} |a|>Mのとき、 {\displaystyle \Delta =0} \Delta =0 の実根は存在しない。この場合、カー時空に事象の地平面が存在せず、裸の特異点を持つことを意味する。このようなカー時空は、高速回転(rapidly rotating または over-rotating)カー時空と言われる。
計量の逆行列と行列式[編集]
ボイヤー・リンキスト座標での座標基底を用いて、計量の逆行列(inverse metric)は
{\displaystyle {\begin{aligned}g^{\mu \nu }{\frac {\partial }{\partial x^{\mu }}}{\frac {\partial }{\partial x^{\nu }}}=&-{\frac {1}{\Delta }}\left(r^{2}+a^{2}+{\frac {2a^{2}Mr\sin ^{2}\theta }{\Sigma }}\right)\left({\frac {\partial }{\partial t}}\right)^{2}-{\frac {2aMr}{\Sigma \Delta }}{\frac {\partial }{\partial t}}{\frac {\partial }{\partial \phi }}\\&+{\frac {\Delta }{\Sigma }}\left({\frac {\partial }{\partial r}}\right)^{2}+{\frac {1}{\Sigma }}\left({\frac {\partial }{\partial \theta }}\right)^{2}+{\frac {1}{\Delta \sin ^{2}\theta }}\left(1-{\frac {2Mr}{\Sigma }}\right)\left({\frac {\partial }{\partial \phi }}\right)^{2}\end{aligned}}} {\begin{aligned}g^{\mu \nu }{\frac {\partial }{\partial x^{\mu }}}{\frac {\partial }{\partial x^{\nu }}}=&-{\frac {1}{\Delta }}\left(r^{2}+a^{2}+{\frac {2a^{2}Mr\sin ^{2}\theta }{\Sigma }}\right)\left({\frac {\partial }{\partial t}}\right)^{2}-{\frac {2aMr}{\Sigma \Delta }}{\frac {\partial }{\partial t}}{\frac {\partial }{\partial \phi }}\\&+{\frac {\Delta }{\Sigma }}\left({\frac {\partial }{\partial r}}\right)^{2}+{\frac {1}{\Sigma }}\left({\frac {\partial }{\partial \theta }}\right)^{2}+{\frac {1}{\Delta \sin ^{2}\theta }}\left(1-{\frac {2Mr}{\Sigma }}\right)\left({\frac {\partial }{\partial \phi }}\right)^{2}\end{aligned}}
で与えられる。また、行列式は
{\displaystyle {\begin{aligned}\det(g_{\mu \nu })=-\Sigma ^{2}\sin ^{2}\theta \end{aligned}}} {\begin{aligned}\det(g_{\mu \nu })=-\Sigma ^{2}\sin ^{2}\theta \end{aligned}}
となる。
正規直行基底の見易い表式[編集]
以下では、カー計量のボイヤー・リンキスト座標による表現でよく用いられる3つの正規直行基底 {\displaystyle \{e^{0},e^{1},e^{2},e^{3}\}} \{e^{0},e^{1},e^{2},e^{3}\} を与える。つまり、計量は
{\displaystyle ds^{2}=-(e^{0})^{2}+(e^{1})^{2}+(e^{2})^{2}+(e^{3})^{2}} ds^{2}=-(e^{0})^{2}+(e^{1})^{2}+(e^{2})^{2}+(e^{3})^{2}
のように表される。また、その双対ベクトル {\displaystyle \{X_{0},X_{1},X_{2},X_{3}\}} \{X_{0},X_{1},X_{2},X_{3}\} は {\displaystyle e^{\mu }(X_{\nu })=\delta _{\nu }^{\mu }} e^{\mu }(X_{\nu })=\delta _{\nu }^{\mu } により定義される。
{\displaystyle dt} dt について平方完成された表式
{\displaystyle {\begin{aligned}ds^{2}=-{\frac {G}{\Sigma }}\left(dt+{\frac {A}{G}}a\sin ^{2}\theta d\phi \right)^{2}+\Sigma \left({\frac {dr^{2}}{\Delta }}+d\theta ^{2}+{\frac {\Delta }{G}}\sin ^{2}\theta d\phi ^{2}\right)\end{aligned}}} {\begin{aligned}ds^{2}=-{\frac {G}{\Sigma }}\left(dt+{\frac {A}{G}}a\sin ^{2}\theta d\phi \right)^{2}+\Sigma \left({\frac {dr^{2}}{\Delta }}+d\theta ^{2}+{\frac {\Delta }{G}}\sin ^{2}\theta d\phi ^{2}\right)\end{aligned}}
ここで、 {\displaystyle \Sigma } \Sigma や {\displaystyle \Delta } \Delta は上で定義されているものと同じ、 {\displaystyle A} A および {\displaystyle G} G は
{\displaystyle A=2mr\,,\quad G=\Delta -a^{2}\sin ^{2}\theta \,} A=2mr\,,\quad G=\Delta -a^{2}\sin ^{2}\theta \,
で定義された関数である。 この表式において、 {\displaystyle \Delta (r)} \Delta (r)、 {\displaystyle A(r)} A(r) および {\displaystyle \Sigma (r,\theta )} \Sigma (r,\theta ) を未知関数としたものを アインシュタイン方程式の厳密解の仮定として利用することがある。 また、カー・ブラックホール時空に隠れている {\displaystyle SL(2,R)\times SL(2,R)} SL(2,R)\times SL(2,R) 対称性を顕わに見える形で取り出してくる場合にも、この表式が利用される。 これは、カー・ブラックホール時空の「差し引かれた幾何(Subtracted Geometry)」と言われる。 {\displaystyle \Delta (r)} \Delta (r)、 {\displaystyle A(r)} A(r) および {\displaystyle \Sigma (r,\theta )} \Sigma (r,\theta ) を
{\displaystyle \Delta =(r-r_{+})(r-r_{-})\,,\quad A=c_{1}r+c_{2}\,,\quad \Sigma =\{c_{1}^{2}(r_{+}+r_{-})+2c_{1}c_{2}\}r+c_{2}^{2}-c_{1}^{2}(r_{+}r_{-}-a^{2}\sin ^{2}\theta )\,} \Delta =(r-r_{+})(r-r_{-})\,,\quad A=c_{1}r+c_{2}\,,\quad \Sigma =\{c_{1}^{2}(r_{+}+r_{-})+2c_{1}c_{2}\}r+c_{2}^{2}-c_{1}^{2}(r_{+}r_{-}-a^{2}\sin ^{2}\theta )\,
で置き換えると、計量は {\displaystyle AdS_{3}\times (1/4)S^{2}} AdS_{3}\times (1/4)S^{2} 時空上の標準計量のあるキリングベクトル方向へのカルツァ・クライン還元になっていることが分かる。 ここで、 {\displaystyle r_{+}} r_{+}、 {\displaystyle r_{-}} r_{-}、 {\displaystyle c_{1}} c_{1} および {\displaystyle c_{2}} c_{2} は定数である。
{\displaystyle d\phi } d\phi について平方完成された表式
{\displaystyle {\begin{aligned}ds^{2}=\Sigma \left(-{\frac {\Delta }{P}}dt^{2}+{\frac {dr^{2}}{\Delta }}+d\theta ^{2}\right)+{\frac {P\sin ^{2}\theta }{\Sigma }}\left(d\phi -{\frac {2aMr}{P}}dt\right)^{2}\end{aligned}}} {\begin{aligned}ds^{2}=\Sigma \left(-{\frac {\Delta }{P}}dt^{2}+{\frac {dr^{2}}{\Delta }}+d\theta ^{2}\right)+{\frac {P\sin ^{2}\theta }{\Sigma }}\left(d\phi -{\frac {2aMr}{P}}dt\right)^{2}\end{aligned}}
ここで、 {\displaystyle \Sigma } \Sigma や {\displaystyle \Delta } \Delta は上で定義されているものと同じ、 {\displaystyle P} P は
{\displaystyle P=(r^{2}+a^{2})\Sigma +2a^{2}Mr\sin ^{2}\theta \,} P=(r^{2}+a^{2})\Sigma +2a^{2}Mr\sin ^{2}\theta \,
で定義された関数である。この表式は、近地平面極限(Near Horizon Limit)を取るときに利用される。
その他の表式
{\displaystyle {\begin{aligned}ds^{2}=-{\frac {\Delta }{\Sigma }}\left(dt-a\sin ^{2}\theta d\phi \right)^{2}+{\frac {\Sigma }{\Delta }}dr^{2}+\Sigma d\theta ^{2}+{\frac {\sin ^{2}\theta }{\Sigma }}\left(adt-(r^{2}+a^{2})d\phi \right)^{2}\end{aligned}}} {\begin{aligned}ds^{2}=-{\frac {\Delta }{\Sigma }}\left(dt-a\sin ^{2}\theta d\phi \right)^{2}+{\frac {\Sigma }{\Delta }}dr^{2}+\Sigma d\theta ^{2}+{\frac {\sin ^{2}\theta }{\Sigma }}\left(adt-(r^{2}+a^{2})d\phi \right)^{2}\end{aligned}}
ここで、 {\displaystyle \Sigma } \Sigma や {\displaystyle \Delta } \Delta は上で定義されているものと同じである。 この表式だと測地線方程式の変数分離性が見やすい。 こうして、正規直交基底は
{\displaystyle {\begin{aligned}&e^{0}={\sqrt {\frac {\Delta }{\Sigma }}}\left(dt-a\sin ^{2}\theta d\phi \right)\,,\quad e^{1}={\sqrt {\frac {\Sigma }{\Delta }}}dr\,,\quad e^{2}={\sqrt {\Sigma }}d\theta \,,\\&e^{3}={\sqrt {\frac {\sin ^{2}\theta }{\Sigma }}}\left(adt-(r^{2}+a^{2})d\phi \right)\end{aligned}}} {\begin{aligned}&e^{0}={\sqrt {\frac {\Delta }{\Sigma }}}\left(dt-a\sin ^{2}\theta d\phi \right)\,,\quad e^{1}={\sqrt {\frac {\Sigma }{\Delta }}}dr\,,\quad e^{2}={\sqrt {\Sigma }}d\theta \,,\\&e^{3}={\sqrt {\frac {\sin ^{2}\theta }{\Sigma }}}\left(adt-(r^{2}+a^{2})d\phi \right)\end{aligned}}
双対ベクトルは
{\displaystyle {\begin{aligned}&X_{0}={\frac {1}{\sqrt {\Delta \Sigma }}}\left((r^{2}+a^{2})\partial _{t}+a\partial _{\phi }\right)\,,\quad X_{1}={\sqrt {\frac {\Delta }{\Sigma }}}\partial _{r}\,,\quad X_{2}={\frac {1}{\sqrt {\Sigma }}}\partial _{\theta }\,,\\&X_{3}=-{\frac {1}{\sqrt {\Sigma \sin ^{2}\theta }}}\left(a\sin ^{2}\theta \partial _{t}+\partial _{\phi }\right)\end{aligned}}} {\begin{aligned}&X_{0}={\frac {1}{\sqrt {\Delta \Sigma }}}\left((r^{2}+a^{2})\partial _{t}+a\partial _{\phi }\right)\,,\quad X_{1}={\sqrt {\frac {\Delta }{\Sigma }}}\partial _{r}\,,\quad X_{2}={\frac {1}{\sqrt {\Sigma }}}\partial _{\theta }\,,\\&X_{3}=-{\frac {1}{\sqrt {\Sigma \sin ^{2}\theta }}}\left(a\sin ^{2}\theta \partial _{t}+\partial _{\phi }\right)\end{aligned}}
エディントン・フィンケルシュタイン(Eddington-Finkelstein)座標による表現[編集]
ボイヤー・リンキスト座標による表現では、カー計量は {\displaystyle \Delta (r_{\pm })=0} \Delta (r_{\pm })=0 となるような {\displaystyle r=r_{\pm }} r=r_{\pm } のところで発散しているのであった。それらの場所(座標特異点とよばれる)での時空の振る舞いを調べるためには、それらの場所で計量の成分が発散しないような座標を選ぶ必要がある。カー計量に対して、ボイヤー・リンキスト座標による表現での座標特異点を横切ることの出来る別の座標はチャールズ・ミスナー(Charles W. Misner)、キップ・ソーン(Kip S. Thorne)、ジョン・ホイーラー(John A. Wheeler)によって議論され、次のように与えられる。
{\displaystyle {\begin{aligned}dv=dt+{\frac {r^{2}+a^{2}}{\Delta }}dr\,,\quad d{\bar {\phi }}=d\phi +{\frac {a}{\Delta }}dr\end{aligned}}} {\begin{aligned}dv=dt+{\frac {r^{2}+a^{2}}{\Delta }}dr\,,\quad d{\bar {\phi }}=d\phi +{\frac {a}{\Delta }}dr\end{aligned}}
この座標で、 {\displaystyle a=0} a=0 とすると、シュワルツシルドの計量におけるエディントン(A. S. Eddington)とフィンケルシュタイン(D. Finkelstein)の座標を再現することからエディントン・フィンケルシュタイン型の座標、または単に、エディントン・フィンケルシュタイン(Eddington-Finkelstein)座標とよばれる。 エディントン・フィンケルシュタイン座標を用いて、カー計量は
{\displaystyle {\begin{aligned}ds^{2}=&-\left(1-{\frac {2Mr}{\Sigma }}\right)(dv-a\sin ^{2}\theta d{\bar {\phi }})^{2}\\&+2(dv-a\sin ^{2}\theta d{\bar {\phi }})(dr-a\sin ^{2}\theta d{\bar {\phi }})+\Sigma (d\theta ^{2}+\sin ^{2}\theta d{\bar {\phi }})\end{aligned}}} {\begin{aligned}ds^{2}=&-\left(1-{\frac {2Mr}{\Sigma }}\right)(dv-a\sin ^{2}\theta d{\bar {\phi }})^{2}\\&+2(dv-a\sin ^{2}\theta d{\bar {\phi }})(dr-a\sin ^{2}\theta d{\bar {\phi }})+\Sigma (d\theta ^{2}+\sin ^{2}\theta d{\bar {\phi }})\end{aligned}}
のように表現される。 この表現は、カーが最初に求めたものと同じである。
カー・シルド(Kerr-Schild)形式による表現[編集]
カーターのクラス[編集]
極限カー計量[編集]
事象の地平面[編集]
カー計量のボイヤー・リンキスト座標による表現で {\displaystyle g_{rr}} g_{rr} 成分が発散する場所、つまり、 {\displaystyle \Delta =0} \Delta =0 は事象の地平面を与える。エディントン・フィンケルシュタイン座標に移れば {\displaystyle \Delta =0} \Delta =0 としても計量が特異性を示さないことから、ボイヤー・リンキスト座標による {\displaystyle g_{rr}} g_{rr} 成分の発散が座標に依存した特異性であることが分かる。このような特異点は座標特異点(Coordinate singularity)と呼ばれる。遅速回転カー時空 {\displaystyle M>|a|} M>|a| を考える場合、 {\displaystyle \Delta =0} \Delta =0 は異なる2つの根
{\displaystyle r_{\pm }=M\pm {\sqrt {M^{2}-a^{2}}}} r_{\pm }=M\pm {\sqrt {M^{2}-a^{2}}}
を持つ。これらはシュヴァルツシルド時空への極限 {\displaystyle a\to 0} a\to 0 で、事象の地平面 {\displaystyle r_{+}\to M} r_{+}\to M および曲率特異点 {\displaystyle r_{-}\to 0} r_{-}\to 0 に対応する場所である。 {\displaystyle r=} r= 一定面上での計量の行列式の計算
{\displaystyle \det(g_{\mu \nu }){\Big |}_{r=const.}=-\Sigma \Delta \sin ^{2}\theta } \det(g_{\mu \nu }){\Big |}_{r=const.}=-\Sigma \Delta \sin ^{2}\theta
から、 {\displaystyle r=} r= 一定面が {\displaystyle \Delta >0} \Delta >0 のとき空間的、 {\displaystyle \Delta <0} \Delta <0 のとき時間的、 {\displaystyle \Delta =0} \Delta =0 のとき光的であることが分かる。したがって、 {\displaystyle \Delta =0} \Delta =0 なる条件は {\displaystyle r=r_{\pm }} r=r_{\pm } にある2つの光的超局面を表している。
エルゴ球面[編集]
カー計量のボイヤー・リンキスト座標による表現で、 {\displaystyle dt^{2}} dt^{2} の成分が消える場所はエルゴ球面を与える。
測地線[編集]
曲がった時空上の測地線問題は、自由粒子に対するハミルトン-ヤコビ方程式 {\displaystyle {\frac {\partial S}{\partial \lambda }}+g^{\mu \nu }\partial _{\mu }S\partial _{\nu }S=0} {\frac {\partial S}{\partial \lambda }}+g^{\mu \nu }\partial _{\mu }S\partial _{\nu }S=0 によって記述される。
隠れた対称性[編集]
測地線方程式の変数分離性[編集]
カー時空中における、自由落下する粒子の運動(測地線運動)を記述するハミルトン-ヤコビ方程式は変数分離によって解くことができる。このことは、1968年、ブランドン・カーター(Brandon Carter)によって初めて証明された[1][2]。実際には、カー時空を含むより一般的なクラス(カーターのクラスと呼ばれる)の時空に対して、ハミルトン-ヤコビ方程式とスカラー場の方程式(シュレーディンガー方程式)の両方が変数分離によって解かれることが示されている。カー時空には本来、時間並進対称性と回転対称性に関連する二つのキリングベクトルが存在し、それらに対応した2つの独立な保存量が内在している。そのため、ハミルトン-ヤコビ方程式が可積分であるためには、ハミルトニアンとは別に、4つめの独立な保存量が必要であった。カーターはこの四つ目の保存量の存在を指摘した。その保存量は「カーター定数」とよばれている。
それから2年後、カーターとは違った形で、カー時空におけるハミルトン-ヤコビ方程式の可積分性が証明された[3]。 マーティン・ウォーカー(Martin Walker)とロジャー・ペンローズ(Roger Penrose)は、カー時空に2階の分離不可能なキリングテンソルが存在することを示し、カーター定数が粒子の運動量に関して2次の保存量になっていることを明らかにした。ここで、2階のキリングテンソルとは
{\displaystyle \nabla _{(a}K_{bc)}=0\,} \nabla _{(a}K_{bc)}=0\,
を満たす2階の対称テンソルをいう。一般に、キリングベクトル {\displaystyle \xi \,} \xi \, の存在する空間では {\displaystyle K_{ab}=c_{1}\xi _{(a}\xi _{b)}+c_{2}g_{ab}\,} K_{ab}=c_{1}\xi _{(a}\xi _{b)}+c_{2}g_{ab}\, ( {\displaystyle c_{1},c_{2}\,} c_{1},c_{2}\, は定数)によって2階のキリングテンソルをいつでも構成することができるが、 このようにキリングベクトルや計量から構成できるキリングテンソルは分離可能(reducible)なキリングテンソルとよばれ、 分離不可能(irreducible)なものとは区別される。 すべてのキリングテンソルがキリングベクトルから構成できるとは限らず、 カー時空において分離不可能なキリングテンソルを見つけたことがウォーカーとペンローズの功績である。
1973年、フロイト(R. Floyd)はカー時空に存在する2階のキリングテンソルが、2階のキリング・矢野テンソルを用いて
{\displaystyle K_{ab}=f_{ac}f_{b}{}^{c}\,} K_{ab}=f_{ac}f_{b}{}^{c}\,
のように書けることを指摘した[4]。 ここで、2階のキリング・矢野テンソルとは
{\displaystyle \nabla _{(a}f_{b)c}=0\,} \nabla _{(a}f_{b)c}=0\,
を満たす2階の反対称テンソルをいう。 フロイトの仕事は、言いかえれば、カー時空における2階のキリング・矢野テンソルの存在を示しているわけであるが、すべての2階のキリングテンソルが2階のキリング・矢野テンソルに分解できるわけではないため、その意味でカー時空が"特別"であることを意味している。 さらに同じ年、カー時空が本来持っている2つのアイソメトリー、 {\displaystyle \xi \,} \xi \, と {\displaystyle \eta \,} \eta \, が2階のキリング・矢野テンソルを用いて
{\displaystyle \xi ^{a}={\frac {1}{3}}\nabla _{b}(*f)^{ba}\,} \xi ^{a}={\frac {1}{3}}\nabla _{b}(*f)^{ba}\,
{\displaystyle \eta ^{a}=K^{a}{}_{b}\xi ^{b}\,} \eta ^{a}=K^{a}{}_{b}\xi ^{b}\,
のように書けることをハッシュトン(L. P. Hughston)とゾンマー(P. Sommers)は見出した[5]。 これにより、カー時空では、ハミルトン-ヤコビ方程式が可積分であるためのすべての保存量が2階のキリング・矢野テンソルという1つの反対称テンソル場から生成されることが分かる。https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AB%E3%83%BC%E8%A7%A3
再生核研究所声明312(2016.07.14) ゼロ除算による 平成の数学改革を提案する
アリストテレス以来、あるいは西暦628年インドにおけるゼロの記録と、算術の確立以来、またアインシュタインの人生最大の懸案の問題とされてきた、ゼロで割る問題 ゼロ除算は、本質的に新しい局面を迎え、数学における基礎的な部分の欠落が明瞭になってきた。ここ70年を越えても教科書や学術書における数学の基礎的な部分の変更は かつて無かった事である。
そこで、最近の成果を基に現状における学術書、教科書の変更すべき大勢を外観して置きたい。特に、大学学部までの初等数学において、日本人の寄与は皆無であると言えるから、日本人が数学の基礎に貢献できる稀なる好機にもなるので、数学者、教育者など関係者の注意を換気したい。― この文脈では稀なる日本人数学者 関孝和の業績が世界の数学に活かせなかったことは 誠に残念に思われる。
先ず、数学の基礎である四則演算において ゼロでは割れない との世の定説を改め、自然に拡張された分数、割り算で、いつでも四則演算は例外なく、可能であるとする。山田体の導入。その際、小学生から割り算や分数の定義を除算の意味で 繰り返し減法(道脇方式)で定義し、ゼロ除算は自明であるとし 計算機が割り算を行うような算法で 計算方法も指導する。― この方法は割り算の簡明な算法として児童に歓迎されるだろう。
反比例の法則や関数y=1/xの出現の際には、その原点での値はゼロであると 定義する。その広範な応用は 学習過程の進展に従って どんどん触れて行くこととする。
いわゆるユークリッド幾何学の学習においては、立体射影の概念に早期に触れ、ゼロ除算が拓いた新しい空間像を指導する。無限、無限の彼方の概念、平行線の概念、勾配の概念を変える必要がある。どのように、如何に、カリキュラムに取り組むかは、もちろん、慎重な検討が必要で、数学界、教育界などの関係者による国家的取り組み、協議が必要である。重要項目は、直角座標系で y軸の勾配はゼロであること。真無限における破壊現象、接線などの新しい性質、解析幾何学との美しい関係と調和。すべての直線が原点を代数的に通り、平行な2直線は原点で代数的に交わっていること。行列式と破壊現象の美しい関係など。
大学レベルになれば、微積分、線形代数、微分方程式、複素解析をゼロ除算の成果で修正、補充して行く。複素解析学におけるローラン展開の学習以前でも形式的なローラン展開(負べき項を含む展開)の中心の値をゼロ除算で定義し、広範な応用を展開する。特に微分係数が正や負の無限大の時、微分係数をゼロと修正することによって、微分法の多くの公式や定理の表現が簡素化され、教科書の結構な記述の変更が要求される。媒介変数を含む多くの関数族は、ゼロ除算 算法で統一的な視点が与えられる。多くの公式の記述が簡単になり、修正される。
複素解析学においては 無限遠点はゼロで表現されると、コペルニクス的変更(無限とされていたのが実はゼロだった)を行い、極の概念を次のように変更する。極、特異点の定義は そのままであるが、それらの点の近傍で、限りなく無限の値に近づく値を位数まで込めて取るが、特異点では、ゼロ除算に言う、有限確定値をとるとする。その有限確定値のいろいろ幾何学な意味を学ぶ。古典的な鏡像の定説;原点の 原点を中心とする円の鏡像は無限遠点であるは、誤りであり、修正し、ゼロであると いろいろな根拠によって説明する。これら、無限遠点の考えの修正は、ユークリッド以来、我々の空間に対する認識の世界史上に置ける大きな変更であり、数学を越えた世界観の変更を意味している。― この文脈では天動説が地動説に変わった歴史上の事件が想起される。
ゼロ除算は 物理学を始め、広く自然科学や計算機科学への大きな影響が期待される。しかしながら、ゼロ除算の研究成果を教科書、学術書に遅滞なく取り入れていくことは、真智への愛、真理の追究の表現であり、四則演算が自由にできないとなれば、人類の名誉にも関わることである。ゼロ除算の発見は 日本の世界に置ける顕著な貢献として世界史に記録されるだろう。研究と活用の推進を 大きな夢を懐きながら 要請したい。
以 上
追記:
(2016) Matrices and Division by Zero z/0 = 0. Advances in Linear Algebra & Matrix Theory, 6, 51-58.
http://www.scirp.org/journal/alamt http://dx.doi.org/10.4236/alamt.2016.62007
http://www.ijapm.org/show-63-504-1.html
http://www.diogenes.bg/ijam/contents/2014-27-2/9/9.pdf DOI:10.12732/ijam.v27i2.9.
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